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シンガポールの水道水は飲める?安全性や水不足の現状、供給の仕組みを解説

シンガポールに住む、または訪れる際に気になるのが、「水は飲めるのか?」という疑問です。
シンガポールの水道水には、日本とは異なる特徴や水事情などがあるため、現地を訪れる機会のある方はあらかじめ知っておきたいものです。
今回は、シンガポールの水道水について、安全性や供給する仕組み、水不足の現状と将来の課題、そして持続可能な水供給に向けた取り組みについて、わかりやすく解説します。
目次
シンガポールの水道水は飲める?
シンガポールの水道水は厳格な基準のもとで管理されているため、蛇口からそのままコップに注いで飲むことができます。ただし、フッ素が添加されているなど、日本の水道水とは異なる特徴もあるので、正しく理解しておく必要があります。
シンガポールの水道水は、WHO(世界保健機関)の飲料水ガイドラインに適合する水準で管理されており、直接飲用が可能です。水道事業を管轄するPUB(シンガポール国家水道局)により供給される水は、水質を常時モニタリング・検査されています*。
日常生活の中でも、シンガポールの飲食店や公共施設の冷水機にそのまま水道水が使われており、市民が日常的に安心して利用しているのが実態です。旅行者やシンガポール在住者の多くは、特別なフィルターなしに水道水を飲用しています。
*PUB「Water Quality」
シンガポールの水道水と日本の水道水の違い

シンガポールと日本は、どちらも安全に飲める水道水を持っています。ただし、その背景や特徴には、明確な違いがあります。
水質の違いとフッ素添加の有無
最も大きな違いのひとつが、水道水へのフッ素添加の有無です。シンガポールの水道水には、虫歯予防を目的として、フッ素が添加されています。国の公衆衛生政策として、1957年から継続されています**。
日本の水道水は基本的にフッ素が添加されておらず、意図的な添加は一般的には行われていません。一方、シンガポールは虫歯予防政策として国家レベルでフッ素を添加しています。なお、水の硬度については、両国とも軟水に分類されます。
もし水道水へのフッ素の添加が気になる方は、フッ素除去フィルター付きの浄水器を使用するか、市販のミネラルウォーターを活用するとよいでしょう。
**PUB「Water Quality」
■日本の水道水とシンガポールの水道水の比較
| 比較項目 | 日本 | シンガポール |
| フッ素添加 | なし(基本) | あり(0.7mg/Lを下回る水準で管理) |
| 硬度 | 軟水 | 軟水 |
| 直接飲用 | 可能 | 可能 |
| WHO基準 | 満たす | 満たす |
水供給の仕組みと水源の違い
日本は、年間降水量が約1,700mmと世界平均の約2倍あり、主に河川・ダム・地下水から取水しています。水資源量に比較的恵まれている一方で、地域差や季節差、渇水への備えも重要な課題です***。
一方、シンガポールは、輸入水や再生水、淡水化水、国内貯水池という、多角的な水源に依存しています。
日本が「豊富な水をいかに安全・安定的に届けるか」を課題とするのに対し、シンガポールは「限られた水をいかに作り出し節約するか」という発想で水政策が展開されていて、その取り組みは世界的なモデルケースとして注目されています。
***国土交通省「水資源白書」
シンガポールに水が供給される仕組みと水源の種類

シンガポールへの水の供給は、以下の「Four National Taps(四大水源)」と呼ばれる、4つの水源によって成り立っています。1つが不安定になってもほかでカバーできる水源の「多角化戦略」は、水資源小国のシンガポールが生き延びるための知恵といえるでしょう。
国内貯水池と雨水の活用
シンガポールには、17ヵ所の貯水池が設けられ、国土の約3分の2を集水域(Catchment Area)として整備されています。年間を通じて降雨が多く、年間降水量は長期平均でも2,000mmを超えています。
代表的な施設として、マリーナ貯水池があります。シンガポール中心部に位置するマリーナ湾をマリーナ・バラージと呼ばれる堰で止めて造られた淡水貯水池で、洪水防止と水供給の両機能を持つ先進的なインフラです****。
また、都市部の道路脇に整備された排水路(Drainage Canals)も、雨水を集水域へ効率よく送るシステムの一部として機能しています。
****PUB「Local Catchment Water」「Marina Barrage」
マレーシアからの水の輸入
マレーシアからの水の輸入は、シンガポールにとって重要な水源のひとつです。
水の輸入は1962年に締結された「1962年水協定」に基づき、現在の契約は2061年まで有効です*****。シンガポールはマレーシアから原水を購入し、自国で浄水処理してから供給しています。シンガポール政府は2061年の契約満了に向けて、段階的に水の自給自足体制を整える方針を打ち出しています。
*****PUB「Imported Water」
下水道再生水「NEWater(ニューウォーター)」の技術と利用状況
NEWater(ニューウォーター)は、シンガポールが誇る高度下水再生技術の集大成です。使用済みの下水を、以下の3段階の高度処理プロセスを通じて、飲料水レベルまで浄化しています。
<NEWaterの浄化プロセス(3段階)>
- マイクロフィルトレーション(MF):細菌・懸濁物質を除去
- 逆浸透膜(RO):ウイルス・有害物質・溶解塩分を除去
- 紫外線(UV)殺菌:残留微生物を不活化
この3段階の工程を経た水は、WHOおよびシンガポールの飲料水基準に適合する高い水質となります。
なお、逆浸透膜技術の分野では、日本企業の膜技術が活用される事例もあり、日本の技術が世界の水問題解決に貢献しているといえるでしょう。NEWaterは現在、シンガポールの重要な水源のひとつとして位置づけられており、工業用途や商業施設の空調冷却用途、貯水池への補給などに利用されています******。
******PUB「NEWater」
海水淡水化の技術とプラントの現状
シンガポールは2005年にトゥアス地区に海水淡水化プラントを稼働させ、現在までに5つのプラントを運営しています。最新鋭のプラントでは逆浸透膜技術の改良によってエネルギー消費量を大幅に削減しており、国際的な水処理業界でも高い評価を受けています。
現在、海水淡水化はシンガポール内に供給される水生産量の約10%を担い、2061年の水協定終了後に備えた切り札として位置づけられているといえるでしょう。
シンガポールの水不足の現状と将来の課題

一見水に恵まれているように見えるシンガポールですが、その実態は慢性的な水不足リスクと向き合い続けています。シンガポール政府は、国家の存立に関わる問題として、水政策を最重要課題のひとつと考えているほどです。
水不足の背景と影響
シンガポールが水不足のリスクを抱える最大の理由は、国土が狭く天然の河川や地下水源がほとんど存在しないことです。面積は東京23区をやや上回る程度の大きさしかなく、大きなダムや深い帯水層を持つことが難しい地形といえるでしょう。
さらに、人口増加(2025年6月時点で約611万人)と経済成長に伴う水需要の拡大、そして気候変動による降雨パターンの不安定化が、水需給におけるバランスを一層難しくしています*******。
特に、干ばつが発生した場合には、国内貯水池への流入量が大幅に減少するリスクがあります。水不足は生活用水だけでなく、シンガポールで製造される半導体・電子部品などにも深刻な影響を与えかねません。
*******一般財団法人自治体国際化協会「シンガポールの政策」
持続可能な水供給に向けた政策と取り組み
シンガポール政府は2061年の水輸入契約終了に備え、以下のような自給自足体制の構築を国家戦略として推進しています。
<シンガポールにおける水の自給自足体制の構築>
・ NEWaterの生産拡大:現在の処理能力のさらなる増強と技術革新
・ 海水淡水化プラントの増設:2030年代を見据えた新規プラント建設計画
・ 貯水池の拡充と集水域の整備:降雨をより効率的に集めるインフラ整備
・ 節水キャンペーン「1人1日130リットル目標」:日用水使用量を削減(現在約141リットル)
・ スマート水道メーターの普及:リアルタイムでの使用量把握と漏水防止
また、学校教育における水リテラシー教育も重視されており、子どものころから「水は貴重な資源」という意識を育む取り組みが行われています。
シンガポールの水を安心して使うために知っておきたいこと

シンガポールの水道水は、WHO基準を満たした安全に飲める水です。フッ素が添加されているという独自の特徴はありますが、健康上問題のある濃度ではなく、多くの人が日常的に利用しています。
シンガポールの安定した水供給を支えているのは「Four National Taps(四大水源)」という多角的な戦略です。国内貯水池・マレーシア輸入水・NEWater・海水淡水化という4つの柱を組み合わせることで、水資源に乏しい小国でありながら、安定した水供給を実現しています。
一方で、シンガポールにとって、2061年の水輸入契約終了や気候変動への対応は、今後も大きな課題です。シンガポールの水問題は、世界全体が直面しうる「水資源の持続可能な管理」という普遍的なテーマを先行して示しているといえるでしょう。シンガポールを訪れる際には、蛇口から出る水にも、そうした深い背景があることをぜひ感じてみてください。
世界の水事情について知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
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