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生活排水とは?基礎知識やし尿との違い、家庭でできる対策も解説

毎日の料理・洗濯・入浴――その排水が、知らず知らずのうちに川や海を汚していると聞いたら、驚く人も多いかもしれません。実は、家庭から流れ出る生活排水は、工場排水と並ぶ水質汚染の主要な原因のひとつです。
「排水を流すだけで何がそんなに問題なの?」と思うかもしれませんが、台所排水が河川に流れ込んだだけで、魚が生きられる水質に戻すには、膨大な量の清水が必要になります*。普段自分が何気なく流している水が、これほど大きな影響を持つとは想像しにくいものです。
今回は、生活排水の基本的な定義や種類、環境への具体的な影響、浄化槽の役割と設置ルール、そして今日から始められる家庭での対策を、データとともにわかりやすく解説します。知識を持つことが、水環境を守る最初の一歩になるはずです。
*キッズネット「よごれた水をきれいにするのには、どれくらいの水が必要なんですか?」
目次
生活排水の基礎知識
生活排水は毎日の暮らしの中で当たり前のように発生していますが、その種類や成分の違いを理解することが、適切な処理と環境保全を進める上では欠かせません。
まずは、「し尿」と「生活雑排水」という生活排水の2つの分類と、それぞれが水質に与える影響を押さえておきましょう。
生活排水の定義と種類
生活排水とは、家庭での日常生活(トイレ・台所・洗濯・入浴など)から排出される、すべての水のことです。大きく「し尿(トイレ排水)」と「生活雑排水」の2種類に分けられます。
■生活排水の分類と1日1人当たりの負荷割合

出典:環境省「生活排水読本」
し尿とは、トイレから排出される尿・糞便を含む排水のことです。一方、生活雑排水とは、台所や洗濯機、風呂場、洗面所などのトイレ以外から排出される排水のことで、油汚れと洗剤成分を多く含みます。
一見すると、し尿の方が水質への問題が大きいように思えますが、環境省のデータによると、生活排水が水質に与える汚濁負荷の約50〜60%は生活雑排水、特に台所排水から来ているのです**。
**環境省「第5節 4 国民一人一人の手による環境保全」
生活排水が環境や水質に与える影響
生活排水は、河川や湖沼、海洋の水質が汚染される主要な原因です。特に、未処理のまま放流された生活雑排水は、深刻な水質悪化を引き起こします。
水質汚染の指標として広く使われるのが、BOD(生物化学的酸素要求量)です。水中の有機物を分解するために微生物が消費する酸素の量を示す値で、数値が高いほど水が汚れていることを意味します。
下の表を見ると、台所排水のBOD値は、きれいな河川水の200〜500倍にも上ることがわかります。
■水の状態とBOD値の目安
| 水の状態 | BOD値の目安 |
| きれいな河川水 | 1mg/L以下 |
| 普通の河川水 | 2〜5mg/L |
| 生活雑排水(台所) | 200〜500mg/L |
| し尿 | 200mg/L前後 |
出典:環境省「水・土壌・地盤・海洋環境の保全」などの情報を基に作成
BODが高い水が流れ込んだ河川や湖沼では、溶存酸素(水中に溶け込んだ酸素ガス)の量が急激に低下し、魚類や水生昆虫の生息環境が悪化します。さらに、植物プランクトンの異常増殖が起きると、アオコや赤潮の発生につながり、生態系全体に深刻なダメージを与えます。
なお、台所排水1Lが流れ込んだだけで、魚が生きられる水質に戻すには浴槽約17杯分(約3,000L)もの清水による希釈が必要とされており、日常の排水がいかに環境に大きな負荷を与えているかがわかります。
し尿と生活雑排水の違いと処理方法
し尿と生活雑排水では、含まれる成分も、処理に必要な設備も大きく異なります。生活排水対策を行うには、それぞれの特徴と適切な処理方法を正しく理解しなければなりません。
特に、処理が不十分なまま放流されている排水がどちらの種類なのかを知ることが重要です。
し尿の特徴と処理方法
し尿(トイレ排水)は、有機物・窒素・リンを多く含む排水です。細菌や病原微生物も含まれるため、適切な処理なしに放流することは、健康上も環境上も重大なリスクがあります。
処理方法は、主に、「下水道への接続(水洗トイレ)」と「浄化槽による処理」の2種類です。かつては「単独処理浄化槽」(し尿のみを処理する浄化槽)が広く使われていましたが、雑排水を処理せず放流するため環境負荷が大きいことが問題視されてきました。
現在では、単独処理浄化槽の新設は法律で禁止されており、既設のものも合併処理浄化槽への転換が推奨されています****。
****一般財団法人 静岡県生活科学検査センター「浄化槽について理解を深めよう」
生活雑排水の特徴と処理方法

出典:環境省 浄化槽サイト「水をきれいにする浄化槽ってなに?」
生活雑排水は、し尿と比べると細菌数は少ないものの、油脂や洗剤、食品残渣、界面活性剤などを多く含み、水質汚濁負荷が非常に高い排水です。
下水道接続家庭では、し尿と合わせて下水処理場で処理されますが、合併処理浄化槽を設置している家庭では、し尿と雑排水を一括処理してから放流します。
問題なのは、単独処理浄化槽やくみ取り式の家庭では、雑排水が処理されないまま側溝などへ放流されているケースもある点です。こうした家庭が日本全国にいまだ残っていることが、生活排水対策における大きな課題のひとつとなっています。
浄化槽の種類と設置義務

下水道が整備されていない地域では、浄化槽が生活排水処理の主役を担います。
しかし、ひと口で「浄化槽」といっても、種類によって処理能力と環境への影響は大きく異なります。設置義務や補助制度も併せてご説明します。
単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の違い
浄化槽には、「単独処理浄化槽」と「合併処理浄化槽」の2種類があります。
最大の違いは処理対象の範囲です。単独処理浄化槽はし尿のみを処理し、台所や風呂などの生活雑排水はそのまま放流します。一方、合併処理浄化槽はし尿と生活雑排水をまとめて処理するため、放流水の水質が格段に向上します。
■単独処理浄化槽と合併処理浄化槽との比較
| 項目 | 単独処理浄化槽 | 合併処理浄化槽 |
| 処理対象 | し尿のみ | し尿+生活雑排水 |
| 環境負荷 | 高い(雑排水を未処理放流) | 低い(全排水を処理) |
| 新設 | 禁止 | 推奨・義務化 |
| BOD除去率 | 約65% | 約90%以上 |
出典:島根県江津市「単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換のお願い」などの情報を基に作成
合併処理浄化槽のBOD除去率は約90%以上と高く、単独処理浄化槽と比較すると放流水の水質が大幅に改善されます。
そのため、現在では、単独処理浄化槽の新設は法律で禁止されており、環境負荷の観点からも合併処理浄化槽への転換が強く推奨されています。
浄化槽の設置義務と基準
浄化槽法により、下水道が整備されていない区域に新たに建物を建てる場合は、原則として合併処理浄化槽の設置が義務づけられています。なお、単独処理浄化槽の新設は、2001年の法改正以降、原則禁止となっています*****。
浄化槽の設置後は定期的な保守点検・清掃・法定検査が義務付けられており、適切な管理を怠ると処理性能が低下し、周辺環境への悪影響を及ぼす可能性があります。
また、一部の自治体では、合併処理浄化槽への転換費用に対して、補助金や助成制度を設けています。単独処理浄化槽やくみ取り式をお使いの場合は、お住まいの市区町村の環境担当窓口に問い合わせてみましょう。
*****環境省「浄化槽法の一部を改正する法律について」
家庭でできる生活排水の対策方法
生活排水問題は、法律や行政だけで解決できるものではありません。排出源が無数の家庭に分散しているからこそ、一人ひとりの日常的な取り組みが水質改善の大きな力になります。
以下のように、特別な設備がなくても、今日からすぐに始められる対策は多くあります。
台所での排水対策

出典:環境省「生活排水読本」
台所排水は生活雑排水の中で最も汚濁負荷が高く、水質への影響が大きい排水です。油汚れや食品残渣を排水口に流さないことが、最も効果的な対策になります。
まず、野菜くずや食べ残しは排水口に流さず、ゴミとして処分しましょう。
料理後のフライパンや鍋の油汚れは、キッチンペーパーや古布で拭き取ってから洗うだけで、排水への油分を大幅に減らせます。廃食油は排水口に流さず、固めて可燃ゴミに出すか地域の回収ボックスに捨ててください。
また、味噌汁やめん類の汁は食べきれる量だけ作り、残った汁をそのまま流す習慣を見直すことも重要です。
なお、ディスポーザー(生ごみ粉砕機)は便利に見えますが、下水処理場への有機物負荷を大幅に増やすため、使用を控えることが推奨されています。
洗濯・風呂での対策
洗濯・風呂排水も、水質に無視できない影響を与えています。使う洗剤の種類と量を見直すだけで、排水の汚濁負荷を大きく下げることができます。
洗濯洗剤は、生分解性の高い石けん系や無リン洗剤を選ぶと、河川への負荷を減らせます。
洗剤は用量を守ることが大切で、過剰に入れても洗浄力はほとんど変わらず、むしろすすぎ残りが増えるだけです。洗濯機の糸くずフィルターを定期的に清掃することは、マイクロプラスチックの放流削減にもつながります。
また、風呂の残り湯を洗濯やトイレ洗浄に再利用すれば、節水と排水負荷の軽減を同時に実現できます。シャンプーや石けんは必要量だけ使い、十分にすすぐことで、洗剤成分の排出を最小限に抑えましょう。
側溝・河川への配慮と簡易処理施設の活用
日常の小さな行動も、積み重なると大きな水質悪化につながります。
側溝や雨水桝(あまみずます)にゴミを捨てないこと、廃油・農薬・塗料などの廃液を雨水側溝や河川に流さないことは、地域の水環境を守る基本的なマナーです。地域の河川清掃活動に参加することも、水環境保全への具体的な貢献になります。
単独処理浄化槽、または、くみ取り式トイレの家庭では、生活雑排水が未処理のまま放流されている可能性があります。台所排水の油脂分を排水口の手前で分離・除去するグリストラップ(油水分離器)や、固形物を沈降させる沈殿槽の設置が有効です。
排水対策の根本的な解決策としては、合併処理浄化槽への転換が最も効果的で、自治体の補助制度を活用できる場合もあります。設置済みの浄化槽は、年1〜2回の専門業者による保守点検が法律で義務付けられているため、必ず実施しましょう。******
******環境省「浄化槽の保守点検、清掃等について」
日常のひと工夫が水環境を守る―今日からできることを始めよう

生活排水とは、トイレ・台所・洗濯・風呂など日常生活から排出されるすべての水のことで、「し尿」と「生活雑排水」に分けられます。特に生活雑排水は、処理されないまま放流されると、河川や海の水質を大きく悪化させかねません。台所排水わずか1Lでも、魚が生きられる水質に戻すには浴槽約17杯分の清水が必要になるほどの影響力があります。
家庭でできる排水対策としては、「油を流さない」「洗剤を使いすぎない」「食べ残しを流さない」といったシンプルなことから始まります。一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、地域の水環境を守ることにつながるでしょう。
以下に、家庭でできる生活排水対策のチェックリストを掲載しました。まずは今日から、自分でできる排水対策を始めてみてはいかがでしょうか。
■ 【チェックリスト】家庭でできる生活排水対策
【台所】
・食べ残し・野菜くずは排水口に流さない
・油汚れはペーパーで拭き取ってから洗う
・廃食油は固めるか回収ボックスへ
・味噌汁・めん汁は適量を作る
【洗濯・風呂】
・洗剤は規定量を守る
・生分解性の高い石けん・無リン洗剤を選ぶ
・残り湯を洗濯や掃除に再利用する
・糸くずフィルターを定期清掃する
【屋外・地域】
・側溝にゴミを捨てない
・廃液を雨水側溝に流さない
・地域の清掃活動に参加する
以下の記事も併せてご覧ください。


