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イランが水不足なのはなぜ?現状や原因、中東地域の影響、地政学的リスクとは

イランが深刻な水不足に直面しています。
2025年には、首都テヘランを含む主要都市のダム貯水率が過去最低水準にまで落ち込み、住民生活を直撃するだけでなく、物価高騰もあいまって、大規模な反政府デモの一因にもなりました。さらに、2026年に入ってからは、米国・イスラエルとの軍事衝突において水インフラが攻撃対象となり、中東全域の地政学リスクを急速に高めています。
今回は、そんなイランの水不足の現状と原因とともに、中東全体への影響についても、詳しくご紹介します。
目次
イランの水不足の現状と深刻さ

イランの水不足は短期的な天候不順に留まらず、数十年にわたる構造的問題が積み重なった複合的な危機です。テヘランでは断水対策が相次いでいる一方、この状況への不満が社会的・政治的混乱へと波及しています。
イラン国内の水不足の現状
イランは現在、観測史上最悪レベルの干ばつに苦しんでいます。イラン国立気象局によれば、2025年11月時点の降雨量は前年比83%減少しており、過去40年間で前例のない水準となっています*。
首都テヘランに水を供給する5つの主要ダムの貯水率は2025年11月時点でわずか11%程度に留まっており、テヘランから約24kmに位置するラティヤンダムは貯水率が9%程まで低下しています。イラン第2の都市マシュハド(人口約300万人)に水を供給する貯水池も、3%程度まで落ち込んでいます**。
テヘランの水道当局は「2週間以内に飲料水が尽きる可能性がある」と警告し、ペゼシュキアン大統領も市民の一部を避難させる必要があると発表する事態に至りました。イラン政府は夜間断水や人工降雨(クラウド・シーディング)などの応急措置を講じていますが、抜本的な解決には程遠い状況です。
また、過剰な地下水汲み上げによる地盤沈下も深刻で、リーズ大学の調査ではイランの約2%にあたる広範な地域で地盤沈下が確認されており、テヘランとその周辺では年間31cmもの沈下が進行しています。
*日本貿易振興機構(ジェトロ)「テヘランで深刻な水不足、ダム枯渇危機で水配給や避難の可能性」
**CNN「イラン首都で水が完全に枯渇する恐怖 衛星写真が捉えた壊滅的状況」
水不足からデモが発生
水不足は単なる環境問題に留まらず、社会的・政治的混乱も引き起こしています。
イランでは水不足による生活苦に加え、食料品の価格が前年比72%上昇(卵は約3倍に高騰)するといった物価高騰が追い打ちをかけ、2025年12月末にはテヘランのグランドバザール商人を中心とした大規模な反政府デモが発生しました***。
このデモは「ハーメネイーに死を」などのスローガンとともに全国に拡大し、2026年1月には数千人規模の死傷者を出す深刻な政治的危機へと発展しました。治安当局は催涙ガスや実弾を使用して弾圧し、インターネットの全国遮断も実施されるなど、イラン政府の対応への不満がさらに高まる悪循環に陥っています。
***公益財団法人中東調査会「中東かわら版No.109 イラン:物価高への抗議デモ、全国に拡大」
世界や日本で起きている水不足については、以下の記事も併せてご覧ください。
世界や日本で起きている水不足とは? その現状や原因、解決方法について
イランの水不足の主な原因

水不足の背景には、気候変動という外的要因に加え、数十年にわたる政策の失敗という内的要因が複雑に絡み合っています。まずはそれぞれの原因を理解していきましょう。
気候変動と干ばつの影響
イランの水危機の一因は、地球規模の気候変動による長期的な乾燥化傾向です。イランの平均気温は過去数十年で約2℃上昇し、降水量は35%減少したとされています。国土の約9割が乾燥・半乾燥地帯であるイランにとって、この変化は致命的といえるでしょう****。
2025年12月時点のテヘラン周辺の貯水量は、前年同時期比55%減という衝撃的な数字になっています。
****サステナブル・ビジネス・マガジン オルタナ「異常気象から極端気象へ❸イランの首都が危機的な干ばつに」
水資源管理の問題と農業の水利用
自然要因だけでなく、人的・政策的失敗も水不足を深刻化させている重大な原因です。イランの水使用量の90%以上が農業に使われており、水を大量に消費する作物の生産に偏重しています。
さらに、時代遅れの灌漑技術により、農業用水の90%が無駄になっているともされており、効率的な水管理が急務ともいえるでしょう。また、数十年にわたるダム新設ラッシュは蒸発損失を拡大させ、かつて広大な水域を誇っていたウルミア湖(塩湖)を大幅に縮小させた一因ともなっています*****。過剰な地下水汲み上げが地下帯水層を枯渇させ、地盤沈下という取り返しのつかないダメージを生んでいるのです。
*****INPS JAPAN「世界的な水の破綻とイランの危機」
周辺国との水資源争いの可能性
イランの水不足は、国境を越えた問題でもあります。国境を越えて流れる河川の干上がりは、周辺国との緊張を高めており、中東地域全体で水資源をめぐる国際的な摩擦が増大しています。
一部ではイランの水不足は、隣国による気象操作(人工降雨)の影響によるものという憶測も国内で広がっていますが、科学的根拠は乏しい状況です。一方で、水資源の共同管理の枠組みが存在しないことは、将来的な紛争の火種となりかねません。
中東地域全体の水不足問題の状況と背景

イランが直面する水不足は、イラン固有の問題ではなく、中東全域に共通する水資源の脆弱性を反映しています。地域全体の状況を理解することで、問題の本質がより明確になるでしょう。
中東全体の水資源の脆弱性
中東は世界でも最も乾燥した地域のひとつで、天然の淡水資源は極めて限られている地域です。
たとえば、サウジアラビアでは、水の供給量は1人当たり年間89.5㎥にすぎず、「絶対的な水不足」基準(1人当たり500㎥)を大幅に下回っています。また、UAEでは、過去30年で地下水位が毎年約1mずつ低下しており、今後50年以内に淡水資源が枯渇するとの予測もあります******。
また、国連の推計では、世界人口の40%が水不足に直面しており、2030年までに700万人が干ばつにより移住を余儀なくされるとされており、中東・アフリカ諸国は、その最前線に位置しているといえるでしょう。
*****アブドゥル・ラティフ・ジャミール「都市物流は時流に乗れているだろうか?」
中東各国の水不足対策と課題
湾岸諸国は慢性的な水不足への対応として、海水淡水化技術への依存度を高めています。
たとえば、サウジアラビアでは2023年時点で配給水の50%を海水淡水化で賄っており、「ビジョン2030」のもと、持続可能な水資源確保を国家戦略に位置付けています。
また、バーレーンでは飲料水の約90%を海水淡水化に依存しており、淡水化施設は国民生活の文字通りの「命綱」です。しかし、政治的対立や紛争が水資源管理の国際協力を妨げており、持続可能な水管理の実現は依然として大きな課題として残っています。
イランの水不足がもたらす国際的な地政学リスク

水不足問題は、いまや軍事・安全保障問題と切り離せない次元にまで発展しています。中東の紛争において、新たな水リスクが現実のものとなりつつある今、その地政学的リスクは、日本を含む国際社会にも無縁ではありません。
水資源を標的とした攻撃の増加
2026年に入り、イランをめぐる軍事衝突において、水インフラが明確な攻撃対象となっています。
2026年3月、イランはドローン攻撃によって、バーレーンの海水淡水化施設に被害を与えました。バーレーンは飲料水の約90%を淡水化に依存しており、この攻撃は国民の生存基盤を直接脅かすものでした******。
一方で、イランのアラグチ外相は、米国がゲシュム島のイラン淡水化施設を攻撃し、30の村で水の供給に影響が出たと非難しています。双方が水インフラを攻撃する「水の武器化」は、国際社会の専門機関からも危険な先例として強く警告されています。
******公益財団法人中東調査会「中東かわら版 No.139 バハレーン:淡水化プラントへの攻撃とパキスタンとの関係強化」
水不足が引き起こす地域紛争の可能性
水資源の枯渇は、農業と生活基盤を直撃し、社会的な不安や難民問題をも誘発する恐れがあります。イランでは、農村から都市への人口流入が都市部への圧力を高めており、さらなる社会的不安や人口構成の変化を引き起こしかねません。
専門家たちは、水不足への対策を講じなければ、食料不足と気候難民の発生が中東全域を不安定化させ、世界的な影響をもたらす可能性があると警告しています。中東の複雑な政治情勢と絡み合い、水問題が新たな紛争の火種となるリスクは今後も高まると見られており、国際社会の協調的な水管理と紛争回避策が急務といえるでしょう。
イランの水危機は「他人事」ではない

イランの水不足は、気候変動と数十年にわたる政策的失敗が複合した結果であり、干ばつ・断水といった直接的な影響だけでなく、デモや軍事衝突という連鎖反応も生み出しています。
このイランの危機は中東全体の水不足問題と連動しており、国際的な地政学リスクを着実に高めています。水インフラへの攻撃という前例のない事態は、水が安全保障にかかわるものになったといっても過言ではありません。
今後は、イランの水不足への対策として、持続可能な水資源管理や農業の効率化、そして国際社会の協調的な取り組みが不可欠です。イランの水危機は一国の問題ではなく、気候変動と地政学が交差する現代の縮図として、最新情報を注視し続けることが重要といえるでしょう。
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