水とくらし

世界や日本で起きている水不足とは? その現状や原因、解決方法について

近年、世界各地で水不足や干ばつの被害が深刻化しています。今年の夏には、水不足により、トヨタ自動車株式会社が中国にある工場の操業を停止したというニュースもありました*。

 

国連で採択されたSDGsの中でも、『すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する』という、水に関する指針が目標の1つに掲げられています。そのような世界や日本の水不足について、現状や原因、対策をご紹介します。

*ロイター通信『アングル:世界で深刻化する水不足、「勝ち組」企業選び活発化』

目次

     

     

     

     

    世界や日本の水不足の現状

    世界や日本では、どのような水不足による問題が起きているのでしょうか。

    水資源の偏在や渇水の発生といった事態から考えてみましょう。

     

    世界に偏在する水資

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    ▲左:1人あたり年間降水量と水資源量、右:世界の地域別水資源量と人口および面積の比較

     

    出典:国土交通省 『世界の水資源』

     

    世界人口の74%にあたる約58億人は安全に管理された飲み水を、16%にあたる約12億人は基本的な飲み水を利用できています。しかし、11%にあたる約7億7,100万人は、限定的な飲み水や改善されていない水源、地表水を利用せざるを得ない状況です。**

     

    また、国や地域によって、水の流入量や水資源の分配量に差があります。たとえば、使う量を上回るほど豊富な水資源量を持つカナダのような国がある一方、使う量を大きく下回るような水資源の乏しい中東諸国や東南アジアなどの国々もあり、水資源は国や地域によって偏在していることが分かっています***。

    
    **公益財団法人 日本ユニセフ協会『ユニセフの主な活動分野|水と衛生』
    
    ***国土交通省『世界の水資源』

     

    日本で起きた渇水

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    ▲各種用水の渇水発生地区数

     

    出典:国土交通省『日本の水資源 本編 第5章 渇水,災害,事故等の状況』

     

     

    降雨がない、もしくは少ないことを起因として、が涸れている、またはそうなりつつある水不足の状況のことを「渇水(かっすい)」といいます。近年の日本でも、水道用水や工業用水、農業用水が、渇水の影響を受け不足しました。

     

    水道用水は飲み水に、工業用水はボイラー用水や原料用水など工業用に、農業用水は水田かんがい用水や畑地かんがい用水など農業用に使われる水のことです。

     

    上の図を見ると、1967年・1973年・1984年・1985年・1994年に、特に多くの地区で渇水による影響を受けたことが分かります。

     

    なお、各種用水への渇水の影響とは、以下に当てはまる場合の状況をいいます。

     

    • 水道用水:水道事業者が減圧給水や時間断水により、給水量の削減を行った場合。
    • 工業用水:工業用水道事業者が減圧給水や時間断水により、給水量の削減を行った場合。もしくは、節水率を決めて需要者に節水を求めた場合。
    • 農業用水:河川などの流れの悪化や取水制限によって、作物などへの生育不良が生じた場合。

     

    2001年に内閣府が実施した『水に関する世論調査』によると、渇水による断水や給水制限を経験した人の割合は、回答者のうちの約40%にものぼりました。さらに、そのうち半日以上の断水や給水制限を経験した人が約半数、「生活がかなり困った」とする人が約30%いたことが分かっています****。

     

    ****国土交通省『日本の水資源 本編 第5章 渇水,災害,事故等の状況』

     

     

    水不足となってしまう原因

    世界で水不足になる原因には、以下のようなことが考えられます。人口増加や産業化など、社会問題とも密接に結びついていることが分かります。

    水不足,水不足 日本▲世界の人口推計(2015改訂版)

    出典:国土交通省『水資源問題の原因』

     

    人口増加による需要拡大

    2015年に約37万人とされていた世界の総人口は、2050年には約97億3,000万人まで増加すると予想されています。人口増加に伴い水の使用量も増え、水不足となる地域も増えてきました。

     

    1950年から1995年までの世界人口の増加率は約2.25%でしたが、水の使用量の増加率は約2.74倍と、人口よりも水の使用量の伸びの方が大きかったことが分かっています。中でも、生活用水の使用量は6.76倍と急増しています*****。

     

    気候変動や産業化による水源破壊

    大雨や干ばつなどの異常気象の原因と考えられている地球温暖化による気候変動も、利用できる水の量に大きな影響を与えます。洪水や干ばつは近年世界各地で起きており、2015年には大きな洪水や干ばつが、それぞれ152件、32件も発生しました*****。

     

    また、地球温暖による気温上昇は積雪量の減少や雪が溶け出す時期の早期化など、春夏の河川の流出量にも大きく影響を与えています。

     

    さらに、特に途上国などでは、都市化による開発などで伐採される森林が増加し、それまで水を溜めていてくれた森が減少してしまうといった水源破壊も問題となっています。

    *****国土交通省『水資源問題の原因』

     

    先進国でも深刻な水ストレス

    一方、日本などの先進国でも、潜在的な水不足状態となっている場合があります。作物や畜産物、工業製品の貿易を輸入している国において、もし輸入せずに自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものを「バーチャルウォーター」や「仮想水」、「間接水」などといいます。

     

    日本は食糧自給率が低く、2020年におけるカロリーベースの食糧自給率は37%しかありませんでした******。残り60%以上の作物や畜産物を、海外からの輸入でまかなっていることになります。

     

    このことから、自国で作物や畜産物を育てるのに本来必要な水をほかの国に肩代わりしてもらっているおかげで、その分の水を不自由なく使えているとも言えるでしょう。つまり、日本はバーチャルウォーターに依存している状態なのです。

     

    ******農林水産省『令和2年度食料自給率・食料自給力指標について』

     

     

    水不足解消を期待させるテクノロジー

    水不足,水不足 日本

    近年、水不足を解決するための革新的なテクノロジーが、世界で誕生しています。

     

    海水を淡水に変える海水淡水化技術

    地球上の水の97%を占める海水を濾過し、飲料水や生活水として適した淡水に変える技術のことで、蒸発法とRO膜でろ過する逆浸透(RO)法があります。

     

    RO法に使用されるRO膜は日本メーカーが世界で50%以上のシェアを占めており、中東やアフリカなどの水不足で苦しむ地域で導入されています。

     

    水資源を管理できるIoTテクノロジー

    干ばつの被害が深刻なケニアでは、IBM社による水資源管理を実現させるテクノロジー、『Kenya rapid』プログラムを導入。モノとインターネットを繋ぐIoTソリューションを駆使して、ケニア北部の水資源管理を行うことで、乾燥地域に住む人たちが安全で清潔な水を使えるようになりました*******。

     

    *****IBM『清潔で安全な水をケニアに | IoTで水不足の危機に活路を』

     

     

    まとめ

    日本で生活していると、蛇口をひねればキレイな水がいつでも出ますし、コンビニエンスストアや自動販売機では安全な飲料水をいつでも購入することができます。しかし、世界には水資源が慢性的に逼迫している地域がありますし、また、日本も今後も無限に水資源があるわけではありません。

     

    貴重な水資源を守るためには、日々の生活で節水を心がけたり、河川を汚染するような油や洗剤を排水溝に流す量を減らしたりと、私たち一人ひとりが水を守る取り組みを行っていくことが大切なのです。