• 国際
  • 水とくらし
  • SDGs

インドの水問題が深刻な理由と現状|水不足の実態と政府の対策を徹底解説

インド 水 問題

 

世界最大の人口を抱え、急速な経済成長を遂げる一方で、水問題が深刻化しているインド。水不足や水質汚染は日常生活や健康、経済活動に大きな影響を及ぼし、都市部と農村部での水の供給状況には大きな格差があります。

今回は、インドの水問題について、現状や背景、原因、政府の対策のほか、国際的な支援についてもご紹介します。

 

 

目次

     

     

     

    インドの水問題の現状と背景

    インドの水問題は、人口増加と経済発展の裏で、年々深刻さを増しています。

    政府系シンクタンクの報告によると、2030年までに、インドでは水の総需要に対して供給量は半分しか確保できなくなると予測されており、国の持続的な成長を脅かす課題のひとつになっているともいえるでしょう。

     

     

    インドの水資源の現状

    インドの年間降水量の75%以上は6~9月の4カ月間に集中しており、モンスーンの時期に大きく依存しています*。また、地域によって降水量に大きな差があり、南部のケララ州などでは年間2,500mm以上の降雨がある一方、西部ラジャスタン州では年間400mm未満しかありません**。

     

    また、地下水はインドで水供給の40%を占める重要な水資源ですが、過剰取水により全国で54%の井戸の地下水位が低下しています。北西部のラジャスタン州では地下水位が20mより深い井戸が37%、パンジャブ州では28%に達しており、地下水の枯渇が深刻な問題となっています。

     

    さらに深刻なのは、水質汚染の問題です。インドの水のほぼ70%が汚染されており、世界でも最悪クラスの状況にあります。インドでは人口の80%が飲料水として地下水を利用していますが、国の3分の1の地域では地下水に含まれるフッ化物、鉄、塩分、ヒ素が基準値を超えており、飲料に適さない状態です***。

     

    *日本貿易振興機構(ジェトロ)「インド

    **農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター「資源制約下における世界主要国の農業問題

    ***株式会社アップルツリー「【世界環境ジャーニー・インド】深刻化する『大気汚染と水質汚染』の現状と対策

     

     

    都市部と農村部の水供給状況の違い

    インドの都市部では水道インフラが整備されつつありますが、配水管の老朽化による破損などで漏水率が約40%に上り、給水時間の制限や水質問題が深刻化しています。

     

    2024年3月には、インドのIT都市として知られるベンガルールで深刻な水不足が発生し、域内企業への影響がありました。1日に必要な総水量26億リットルに対し、不足分は5億リットルにものぼっています****。

     

    一方、2019年時点でインドの農村部では、水道普及率が20%以下に留まり、多くの家庭が井戸水や雨水に依存しています*****。水道がない家庭では、女性や子どもが1日に何時間もかけて遠くの水源まで水を汲みに行く必要があり、この労働が教育や経済活動の機会を奪っているといえるでしょう。

     

    ****日本貿易振興機構(ジェトロ)「ベンガルールの水不足、懸念される経済活動への影響

    *****日本貿易振興機構(ジェトロ)「第2期モディ政権、水専門の省庁を設立(インド)

     

     

    インドの水不足が深刻化している原因

    インド 水 問題

     

    インドの水不足は単一の要因ではなく、複数の構造的問題が絡み合って生じています。人口増加や都市化、非効率な水利用、気候変動が相互に作用し、問題をより深刻化させているのです。

     

     

    人口増加による水需要の増大

    2023年時点でインドの人口は約14億人に達し、中国を抜いて世界最大の人口を抱える国となりました。国連によると、2050年までに都市居住者は4億1,600万人増加すると予測されています******。

     

    インドでは、インフラ計画がほとんどないまま都市化が急速に進んだ結果、大半の都市は人口増のストレスに対処する態勢が整っていません。チェンナイ都市圏の人口は約870万人で、1平方キロメートルあたり約26,000人という人口過密状態にあり、水需要の急増に供給が追いついていないのです*******。

     

     

    非効率な農業用水の利用と過剰採取による地下水位の低下

    農業セクターが水消費量の約80%を占めるとされるインドでは、農業用水の効率化が最大の課題です。灌漑普及率は34.5%に留まっており、多くの地域で灌漑インフラが十分に整備されていません*****。

     

    また、インドでは、1960年代の「緑の革命」で灌漑が導入されましたが、過剰な水の利用によって地下水が枯渇してしまう土地が増えています。手厚い補助金を受けた灌漑では地下水が無節操に使われることから、地下水枯渇の問題が生じています。灌漑効率の低さや水を大量に必要とする作物の栽培が、地下水位の低下を加速させている状況です。

     

     

    気候変動による降水パターンの変化

    気候変動の影響により、降水パターンが不安定化しています。

    2019年には、南西モンスーンが例年よりも1週間遅れて到達し、6月時点でインド全土の約44%が干ばつに、中でも約6%は極度の干ばつに直面しました。その際に、国内の主要な91の貯水池における貯水率は、6月20日時点で17%に留まりました********。

     

    また、2023年には、インドのマハラシュトラ州で歴史的な干ばつが発生し、農作物などが壊滅的な被害を受けました。さらに、モンスーンの遅延や降雨量の減少も問題となっており、2023年のモンスーンの季節には、例年よりも少ない降雨量が観測されました。一方で、雨季には集中豪雨が発生するなど、極端な気象現象が増加しており、水管理の課題を増大させています。

     

    ******CNN「インドの深刻な水不足、5年以内に解決できなければ数億人が生命の危機に

    *******独立行政法人 国際協力機構(JICA)「インド国トイレ整備に係る 情報収集・確認調査 ファイナル・レポート

    ********日本貿易振興機構(ジェトロ)「インド全土の4割以上が干ばつ状態に

     

     

     

    インドの水不足が経済・社会に与える影響

    インド 水 問題

     

    水不足は単なる生活の不便さだけでなく、インド経済全体と社会構造に深刻な影響を及ぼしています。農業生産の減少から都市部の経済活動の停滞まで、多岐にわたる問題が発生しているといえるでしょう。

     

     

    生産量の減少による食料価格の高騰

    農業用水の不足は、農作物の生産量減少を招き、食料供給に不安をもたらしています。インドは世界第2位の農産物生産国でありながら、水不足により生産性が低下しており、これが食料価格の上昇につながっています*********。

     

    食料価格の上昇はインドの消費者の生活を圧迫し、社会不安のリスクを高めています。特に、農村部では、農家の収入減少が農村経済の疲弊を加速させており、都市への人口流出をさらに促進するという悪循環が生じています。

     

    工業活動と都市生活への影響

    2024年には、インドのベンガルールで深刻な水不足により、ビジネス活動と市民生活への影響が拡大しました。水不足が製造業やサービス業の稼働に支障をきたし、一部では操業停止に追い込まれる企業も出ています。バンガロールのレストランでは使っていた井戸が枯渇してしまい、新しい井戸を掘る必要に迫られました。市内には深さ457mの井戸が1万3,900基ありますが、そのうち6,900基が枯渇している現状です**********。

     

    インド都市部での給水制限は、住民の生活の質を低下させ、衛生環境にも悪影響を及ぼしています。チェンナイでは水源である4つの貯水池がほぼ枯渇し、毎日数十万人の住民が政府の給水車から水を入れるために列を作っている状況です。病院や学校といった重要なサービスも、運営に支障をきたしています。

     

     

    水の配分やアクセスの不均衡

    インドでは、低所得層や農村部における水不足が健康格差と教育機会の格差を拡大しています。高価な水を買うだけの経済的余裕がある層は対処可能ですが、民間の給水車や雨水を利用するシステムなどを利用できない低所得層は地下水にほとんど依存しており、水不足で最も打撃を受けています。

     

    国際的な統計では、インドでは毎年約20万人が飲料水不足あるいは安全ではない水を飲んで死亡しているとされ、特に子どもたちへの影響が深刻です。インドでは水質汚染に関連する下痢性疾患で数十万人規模が死亡しているとする推計もあります。公平な水の分配やアクセスの改善がインドでは社会安定のカギともいえるでしょう。

     

    ********農林水産省「インドの農林水産業概況

    **********インフォブリッジ「★最高気温52度超、水問題など課題が山積。テクノロジー主導のインドの気候変動レジリエンスを探る★インフォブリッジ通信 Vol. 79

     

     

     

    モディ政権の水問題対策

    インド 水 問題

     

    インドのモディ政権では、水問題を国家的な優先課題と位置づけ、組織改革と大規模なインフラ投資を通じて解決を図っています。特に、2期目のモディ政権では、水資源管理の一元化と農村部への水道普及を重点政策として掲げています。

     

     

    ジャル・シャクティ省の設立

    2019年には、水資源管理を一元化するジャル・シャクティ省が設立されました。モディ首相は2019年8月15日の独立記念日の演説で、2024年までに全農村へ水道を普及させる目標を発表し、予算として3兆6,000億ルピーを確保しました。

     

    インドで実施されている「総合水保全政策(ジャル・ジーヴァン・ミッション)」では、すべての農村世帯に1日1人あたり55リットルの水道水を供給することを目指しています。なお、2019年8月時点で農村部の水道普及率は18.33%(3.27億世帯)に留まっていましたが、2026年1月29日時点で15.79億世帯(81.57%)に水道接続が提供されるまでに改善しました。

     

    ジャル・ジーヴァン・ミッションを2028年まで延長することが発表され、インフラの質と長期的な持続可能性を重視した取り組みが継続されています。

     

     

    水道インフラの整備

    インドは老朽化した配水管の更新や漏水対策にも注力しており、配水管の損傷による約40%の漏水率の改善が重要課題となっています。さらに、インドでは汚水の約70%が未処理とされるため、雨水貯留設備や排水処理施設などのインフラを整備することにより、供給可能な水の量を増やす取り組みも進められています。

     

    インドのタミル・ナド州チェンナイ都市圏において、海水の淡水化施設及び送水・配水施設の建設・改善を行う事業が進行中です。日本のJICAから525億5,600万円の円借款が供与され、安全かつ安定的な上水道サービスの向上が図られています***********。

     

     

    水資源に応じた作物栽培を推奨

    インドでは、水資源に応じた作物栽培の推奨プログラムも展開しています。この推奨プログラムでは、灌漑技術の改善や節水型農業の普及を促進し、点滴灌漑やスプリンクラーなどのマイクロ灌漑システムの導入を支援しています。

     

    雨水の貯留、干ばつの状況と軽減策などを議題として、水の過剰な使用を削減することとともに、積極的な政策と投資支援で雨水貯留を各家庭・コミュニティーレベルにおいて実施し、全土で効率的な水保全を推進する方針が示されました。

     

    ***********日本貿易振興機構(ジェトロ)「事業事前評価表

     

     

     

    インドの水問題に関する国際的な支援と協力

    インド 水 問題

     

    インドの水問題を解決するには、国際的な協力も不可欠です。日本をはじめとする各国政府や国際機関、NGOが技術支援や資金援助を通じて、インドの水インフラの整備を支援しています。

     

     

    日本をはじめとする国際支援の取り組み

    日本政府は過去60年以上にわたり、インドの運輸、電力、上下水道などのインフラ整備を支援してきました。JICA(国際協力機構)は、インドの水道インフラ整備や下水処理技術の提供で協力しており、チェンナイ都市圏上下水道公社への技術支援や資金援助を行っています。

     

    2023年7月には、日本とインドの両政府が半導体や水素・アンモニアといった先端分野で新たな政策対話を設けました。半導体の生産に欠かせない水や電気などのインフラ面において、日本からインドへの支援を視野に入れることも発表しました************。

     

    また、国際機関やNGOも、水問題解決に向けたプロジェクトを展開しています。ウォーターエイドなどのNGOは、コミュニティ主導の取り組みで気候変動への適応力を高める支援を行っています。

     

     

    国際協力の課題と今後の展望

    インドへの国際支援では、支援の持続性や現地ニーズに合っていないことが課題となっています。そのため、インフラ整備だけでなく、現地政府との連携強化や住民参加型の取り組みも重要視されています。

     

    インドでは、気候変動対応を含めた包括的な支援体制の構築が求められており、単なるインフラ整備ではなく、水資源管理の能力向上や住民への啓発活動、技術移転など、多面的なアプローチが欠かせません。民間企業との連携による技術導入や投資も活発化しており、持続可能な水管理システムの構築が今後の成長のカギとなるでしょう。

     

    ************日経新聞「日本とインド、半導体・水素の開発協力 インフラも支援

     

     

     

    インドの水問題の解決には、国際的な支援や水質管理が必要

    インド 水 問題

     

    インドの水問題は、人口増加や都市化、気候変動など、インドという国が抱える複合的な要因で深刻化しています。インドでは2030年までに水需要が供給量の2倍に達すると予測される中、現在約6億人が深刻な水ストレスに直面しており、毎年約20万人が水不足や汚染された水により命を落としているといわれています。

     

    インドの水問題の現状を理解し、関連情報の継続的なチェックや支援活動への関心を持つことが大切です。水問題はインドだけでなく、気候変動により世界中で深刻化しており、国際的な協力と持続可能な水資源管理の重要性がますます高まっているといえるでしょう。

     

    世界の水問題ついては、以下の記事も併せてご覧ください。

    インドネシアの水問題とは?安全性や現状、対策について

    国土の1/4が海抜0m以下!土地が低いオランダに学ぶ治水対策