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浸水対策の基本と実践|ポンプ場の役割や種類も紹介
近年、短時間に大量の雨が集中して降るゲリラ豪雨や線状降水帯の影響による浸水被害が、全国的に珍しくなくなってきました。気象庁のデータによると、1時間の降水量が80mm以上の猛烈な雨の年間発生回数は、50年前と比べ、なんと約1.7倍にも増加しています。
浸水被害が生じると、建物や家財に大きなな損害が及ぶだけでなく、復旧に数週間以上を要することもあります。こうした事態に備えるには、まず水害に関する用語を正しく理解し、地域のインフラであるポンプ場の役割を知り、さらに自宅でできる具体的な対策を平時から整えておくことが欠かせません。ぜひご覧になって、浸水対策の備えに参考にしてみてください。
目次
浸水と関連する水害用語の正しい理解

ニュースや自治体の防災情報では、「浸水」「冠水」「氾濫」など、似たような用語が頻繁に登場しますが、それぞれ意味が異なります。それぞれの理解することで、ハザードマップや気象情報を正しく読み解き、適切な行動につなげることができるでしょう。
浸水とは
浸水とは、住宅や商業施設、車両などの建物内部に水が入り込む状態を指します。
国土交通省の定義では、宅地の地盤面から50cm未満の高さまで水が達した状態を「床下浸水」、50cm以上に達した状態を「床上浸水」と区分しています*。
たとえ床下浸水であっても、基礎や土台に水・泥が入り込むことで木材の腐食やカビの発生を招き、建物の耐久性に長期的なダメージを与えます。一方、床上浸水になると、家財や電気設備への被害が一気に拡大するため、早期発見と迅速な対応が被害を最小限に抑えるポイントになります。
■浸水深と建物被害

※出典:国土交通省「川の防災情報 浸水深と避難行動について」
*国土交通省「川の防災情報 浸水深と避難行動について」
冠水・洪水・水没・氾濫の違い

「冠水」とは、道路や農地・田畑など屋外の地表が水で覆われた状態を指し、気象庁もこの定義を採用しています。建物の内部に水が入る「浸水」とは、区別して使われます。アンダーパス(鉄道や道路の下を通過するために低くなった道路)では冠水が特に発生しやすく、見た目より深く冠水していて車が水没するケースも後を絶ちません。
「洪水」とは、河川の水量が急増して堤防からあふれ出す、または堤防が決壊する自然災害全般を意味します。「水没」とは、建物や物体が完全に水中に沈んだ深刻な状態です。
なお、「氾濫」には2種類あり、河川の水が堤防を越えて周辺に流れ出す「外水氾濫」と、集中豪雨時に下水道の排水能力が追いつかず道路や低地が水につかる「内水氾濫」があります。都市部では後者の内水氾濫による被害も年々増加しており、ポンプ場の排水能力が浸水防止の要となっています**。
**リスク管理ナビ「【解説】浸水と冠水の違いとは?発生のメカニズムや浸水害に備えるための予備知識」
水害については、以下の記事も併せてご覧ください。
水害の種類や原因は?水害の発生時に気をつけたいポイントも紹介
浸水対策の基本
浸水被害を防ぐうえで最も重要なのは、「事前の備え」です。
大雨の予報が出てから動いても、間に合わないことがあります。自分の住む地域のリスクをあらかじめ把握し、基本的な対策手段を身につけておくことが生命と財産を守る第一歩となるでしょう。
気象庁の観測データによると、1時間降水量が80mm以上の猛烈な大雨の年間発生回数は過去50年で約1.7倍に増加しています。国土交通省も、台風の大型化や集中豪雨などの気候変動により水害リスクが年々高まっていると指摘しており、「自分の地域は安全」という思い込みは禁物です。
まず取り組むべきは、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で、自宅周辺の浸水想定区域と想定水深を確認することです。併せて気象庁の「キキクル(危険度分布)」や「川の防災情報」をスマートフォンにブックマークしておくと、リアルタイムで危険情報を入手しやすくなります。
ポンプ場とは?その機能と種類

私たちが普段ほとんど意識することのないポンプ場は、都市の浸水被害を防ぐ上では欠かせないインフラです。まずは、その仕組みと種類を正しく理解しておきましょう。
ポンプ場の役割
ポンプ場とは、下水や雨水を電力で強制的に汲み上げ、処理場や河川へ送り出す施設の総称です。
下水道管は自然の高低差(勾配)を利用して水を流す「自然流下」を基本としますが、平地が長く続く場所や低地では管が地中深くなりすぎてしまい、設置・維持管理が困難になります。そこでポンプを用いて下水を地表近くまで汲み上げ、再び自然流下させる仕組みが必要になります***。
また、台風や大雨の際に河川の水位が上昇すると、住宅地の雨水が自然に河川へ流れ込めなくなります。このとき雨水ポンプ場が雨水を強制的に汲み上げて河川へ放流することで、内水氾濫を防いでいるのです。都市化によって地面がアスファルトで覆われ雨水が浸透しにくくなったことで、ポンプ場の排水能力への依存度はさらに高まっているといえるでしょう。
***長岡市「下水道の仕組み」
ポンプ場の種類と特徴

※出典:日立市「下水処理場へ下水を運ぶポンプ場のしくみ」
ポンプ場は、以下の大きく3種類に分けられます。
<ポンプ場の種類>
・雨水ポンプ場(排水ポンプ場)
地盤が低く雨水を自然流下で河川に排水できない地域に設置され、大雨時に雨水を汲み上げて強制放流する施設。内水氾濫防止の最前線を担い、住宅地の近くに多く設置されている。
・汚水中継ポンプ場
家庭・工場から出た汚水を下水処理場まで自然流下だけで送れない場所に設置し、汚水を地表近くまで汲み上げて再び自然流下させる施設。基本的に無人で24時間自動運転されており、停電時に備えた非常用発電機も完備。
・マンホールポンプ(ミニポンプ場)
下水の量が少ない地域や細い路地など小規模な箇所に設置される小型設備。マンホール内に水中ポンプを埋設する方式を採用している。
災害時のポンプ場の課題
ポンプ場は電力で稼働するため、災害による停電が発生すると機能が停止し、浸水被害が急速に拡大するリスクがあります。中継ポンプ場には非常用発電機が併設されているものの、長期停電時にはマンホールから汚水が噴き出す可能性もあり、停電への備えが課題となっています。
さらに、深刻なのが施設の老朽化です。総務省の資料によると、下水処理施設では機械・電気設備の標準耐用年数(15年)を超えた施設が全体の約90%にのぼります。2025年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管破損による大規模道路陥没事故は、老朽化インフラが重大事故に直結することを改めて社会に示しました。
また、2025年10月には、河川のポンプ場の一部を会計検査院が調べたところ、災害時の浸水地域に設置された施設の9割超で、浸水対策が取られていなかったというニュースも報じられました。浸水が発生した場合には、施設が壊れ、周辺地域で断水や浸水被害が起きる恐れがあります****。
老朽化対策と能力増強の同時進行が、今後の最重要課題といえるでしょう。
****朝日新聞「大雨排水ポンプ、9割浸水対策取られず 周辺で被害恐れ 水資源機構」
インフラの老朽化については、以下の記事も併せてご覧ください。
自宅や施設でできる具体的な浸水対策

公共のポンプ場や下水道インフラには課題があることがわかりました。それらのインフラだけに頼るのではなく、個人・家庭レベルでの備えを平時から積み重ねていかなければなりません。日常の点検・清掃と身近なグッズの準備から始められる浸水対策も多くあります。
日常的にできる点検と清掃
自宅周辺の側溝や雨水ますは、落ち葉、ゴミ、泥が堆積していると、排水能力が大幅に低下します。梅雨前と台風シーズン前の年2回、定期的に清掃して排水の流れを確保しておくことが、最も手軽かつ効果的な浸水対策のひとつです。
また、排水口の詰まりは、専門業者に点検してもらえば、早期発見することができます。
さらに、晴れた日に自宅周辺を観察して水が溜まりやすい場所を把握しておくと、大雨が予想される際に優先して対策を打てます。こうした日頃の「小さな点検」が、被害を防ぐ大きな安心につながるでしょう。
止水板や土のうの活用法
玄関・地下駐車場・シャッターなどの開口部に設置する止水板(防水板)は、水の侵入を物理的に防ぐ最も効果的な手段です。市販の脱着式アルミ製品は軽量で扱いやすく、家庭用として普及が進んでいます。設置には下地が平らである必要があるケースも多いため、購入前に設置予定箇所の形状を確認しておきましょう。
土のうが手元にない場合は、「水のう」が手軽な代替手段です。40リットルのゴミ袋を2枚重ねにして水を半分程度入れ口を縛るだけで作ることができ、玄関・排水口・トイレ・浴室・洗濯機の排水口前に置くことで浸水と下水の逆流を防ぐことができます。
吸水ポリマー入りの「吸水式土のう」は水に浸けるだけで数分以内に膨らむタイプもあり、急な大雨にも素早く対応できます。
排水設備の点検と逆流防止策
大雨時に河川の水位が上昇すると、下水管内の圧力が高まり、トイレや浴室、洗濯機の排水口から汚水が逆流することがあります。特に、地下室や半地下のある住宅ではこのリスクが高いため、専門業者による逆止弁(逆流防止弁)の設置が根本的な対策となります。設置が難しい場合は、まずは排水口に水のうを置く簡易対策からはじめましょう。
排水ポンプや逆流防止弁は、定期点検で正常動作を確認することがかかせません。逆止弁に異物が詰まると逆流防止の効果が発揮されなくなるため、平時のメンテナンスを怠らないようにしてください。
また、自治体によっては大雨警報発令時に下水道の使用制限を呼びかけることもあるため、自治体の防災情報を日頃からチェックしておくことも大切です。
知識と備えが命を守る、今日から始める浸水対策
浸水・冠水・氾濫といった水害用語の違いを正確に知ることが、ハザードマップや気象情報を活用する上での基礎となります。大雨の年間発生回数が50年前の約1.7倍に増加している今、「自分の地域は大丈夫」という思い込みをまず捨てることが、浸水対策の出発点です。
ポンプ場は地域の浸水被害を防ぐ重要なインフラですが、老朽化や停電時の機能停止というリスクを抱えています。全国の下水処理施設の約90%が機械・電気設備の標準耐用年数を超えている現実を踏まえると、公共インフラに頼り切るのではなく、個人レベルでの対策を平時から整えることが不可欠です。
側溝の清掃・止水板の設置・水のうの準備・ハザードマップの確認、これらはいずれも今日から始められる具体的な行動です。大雨が来てから動いても間に合わないことがあります。日頃の小さな積み重ねこそが、いざというときの大きな安心につながることを覚えておいてください。


