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アラル海はなぜ消滅した?場所や原因、ウズベキスタンの水不足問題を解説

「船の墓場」とも呼ばれるアラル海

 

「アラル海」という名前を耳にしたことはあっても、正確な場所や現在の状況を知らない方は多いのではないでしょうか。かつては世界第4位の面積を誇っていた湖ですが、現在ではその姿を大きく変えています。

 

本記事では、アラル海がどこにあるのかという基本情報や消滅した理由とともに、隣国ウズベキスタンの水不足問題との関係、回復に向けた取り組みについても紹介します。

 

 

目次

     

     

     

    アラル海はどこにある?

    アラル海の地図

    ※出典:Google Maps

     

    アラル海は、中央アジアに位置するカザフスタンとウズベキスタンの国境にまたがる内陸湖で、海とはつながっていません。アラル海の北部はカザフスタンのクズロルダ州、南部はウズベキスタンのカラカルパクスタン共和国に属しています。

     

    なお、ウズベキスタンは、国境を接する国もすべて内陸国という「二重内陸国」で、これは世界でリヒテンシュタインとウズベキスタンの2か国のみです。そのため、海に出るためには、最低でも2回、国境を越える必要があります。

     

    1960年代には、アラル海は約6万8000km²という世界第4位の面積を誇る湖で、日本の東北地方とほぼ同じ広さでした。現在は北側の「北アラル海(小アラル海)」と南側の「南アラル海(大アラル海)」に分裂しており、特に南アラル海の縮小が著しい状況です*。

    *JAXA 第一宇宙技術部門「アラル海の消滅」

     

     

    アラル海はなぜ消滅した?

    干上がったアラル海のかつての海底

     

    アラル海の縮小は、自然現象ではなく、人間の活動が引き起こした環境破壊として知られています。どのようなことが理由となったのか、詳しく見ていきましょう。

     

    旧ソ連による大規模な灌漑農業政策

    1960年代、当時アラル海一帯を統治していた旧ソ連は、東側に広がる乾燥地帯を農地に変え、綿花栽培を行う方針を打ち出しました。この政策により、ウズベキスタンの綿花生産量は増大したものの、農業用水の需要は急増し、アラル海からの取水量の急増にもつながったのです。

     

    水源となる2つの河川の水量減少

    アラル海の水源は、アムダリア川とシルダリア川という2つの河川のみです。この2つの河川から灌漑用水路が引かれ、農業用水として大量に取水された結果、アラル海に流れ込む水量が激減しました。

     

    急速に進んだ縮小と現在の面積

    流入水量が減少した湖は蒸発分を補えなくなり、アラル海は1960年代には年平均20cm、1970年代には年平均60cmのペースで水位が低下しました。現在の面積はかつての10分の1以下ともいわれ、最盛期の6万8000km²から大幅に縮小しています**。

    **ウェザーニュース SORA「消えゆく湖 世界4位だったアラル海が消える?」

     

     

    アラル海の面積の推移

    下の表は、年代を追って、アラル海の面積や状況がどのように変化してきたかをまとめたものです。1960年代の最盛期から現在に至るまでの推移を、一覧で確認できます。

     

    年代 アラル海の状況 備考
    1960年代 約6万8000km²(世界第4位) 日本の東北地方とほぼ同じ面積
    1970〜80年代 水位低下が加速、塩分濃度が上昇 淡水魚が生息できなくなる
    1990年代以降 北アラル海と南アラル海に分裂 南部の湿地帯が干上がる
    現在 最盛期の10分の1以下に縮小 北アラル海の一部で回復の兆しも

     

     

     

    アラル海消滅がもたらした影響

    大アラル海から小アラル海へ

    アラル海の縮小は、生態系や産業、住民の健康など、さまざまな側面に深刻な影響を及ぼしました。ここでは、代表的な影響を3つの観点から整理します。

     

    生態系の破壊

    水位低下と塩分濃度の上昇により、魚類や鳥類など多くの生物が姿を消し、生態系が破壊されました。

    塩分濃度は1960年頃には海水の約3分の1でしたが、1980年代には海水並みに、2000年には海水の2倍にまで上昇し、塩分に強いはずの魚も生きられなくなりました。

     

    かつて河口の湿地帯に広がっていたヨシ原や河畔林も干上がり、渡り鳥の飛来も見られなくなるなど、固有種の多くが絶滅したとされています。

     

    漁業の壊滅的な打撃

    最盛期に年間4〜5万トンの漁獲高を支えていた漁業も、水位低下とともに壊滅的な打撃を受けました。漁業を基盤としていた周辺の町は、主要産業を失うことになりました**。

     

    大気汚染・健康被害

    干上がった湖底からは塩分やかつて使用された農薬成分が飛散し、周辺の農作物への被害や大気汚染を引き起こしました。砂塵や塩分を吸い込むことによる住民の健康被害も報告されており、こうした一連の被害は、「20世紀最大の環境破壊」とも呼ばれるほどです。

     

     

    ウズベキスタンの水不足問題

    ウズベキスタンの船の墓場

     

    アラル海の縮小をもたらした灌漑農業の構造は、現在もウズベキスタンの水不足問題として残っています。ここでは、ウズベキスタンにある、主な4つの背景から説明します。

     

    綿花栽培に依存した灌漑農業の構造

    ウズベキスタンは、アラル海に注ぐアムダリア川の水を農業用水として大きく依存してきた国のひとつです。綿花栽培を中心とした灌漑農業の構造が今も残っており、農業用水の需要が高い状態が続いています。

    さらに、過剰な灌漑と用水路からの漏水によって地下水位が上昇し、毛管上昇と蒸発によって塩類が土壌表層に集積する「二次的塩類集積」が広がっています。国際協力機構(JICA)の調査報告では、FAOの資料をもとに、ウズベキスタンの灌漑農地約400万haのうち約200万ha(約50%)が塩害農地であるとされています***。

     

    ***国際協力機構(JICA)「ウズベキスタン国 高濃度フルボ酸を利用した塩類集積農地改善案件化調査 業務完了報告書」(2023年10月)

     

    塩分を含む地下水がもたらす構造物への影響

    塩害の影響は農地にとどまりません。灌漑用水の過剰投入と排水不良によって地下水位が上昇すると、塩分を含んだ地下水が構造物の基礎付近まで達します。

    乾燥地では蒸発が激しいため、コンクリート表面付近で塩分が濃縮しやすく、硫酸イオンがセメント水和物と反応して膨張・ひび割れ・剥離を引き起こす「硫酸塩劣化」のリスクが高まります。基礎や擁壁、排水構造物は特に影響を受けやすい部位です。

    つまり塩害対策は、農地の生産性だけでなく、地域のインフラ寿命にも関わる問題です。その基本は地下水位を適切に下げること、すなわち排水機能の確保にあります。

     

     

    農業用水・生活用水の逼迫

    河川の水量そのものが減少しているため、農業用水と生活用水の両方で不足が生じやすく、地域住民の暮らしにも影響しています。特に、アラル海に近いカラカルパクスタン共和国では、貧困率が2004年に44.7%まで上昇し、その後改善が進んだものの、2020年時点でも住民の14.6%が貧困の中で生活しているとされています。

     

    また、水不足で仕事を失った漁師や農家が近隣国へ出稼ぎに行くケースも多く、残された家族が送金に頼る不安定な生活を送っている実情も報告されています****。

     

    ****国連開発計画(UNDP)「二重内陸国ウズベキスタンが直面している水問題 – 生活の維持および改善に向けた現地の人々取組」

     

    気候変動によるさらなる水資源リスク

    気候変動による降雨や雪解け水の変化も加わり、水資源の確保はウズベキスタンにとって引き続き大きな課題です。

    日本政府も無償資金協力を通じて支援しており、2026年6月には総額460万米ドル規模のプロジェクトが始動しました。灌漑インフラの近代化や水損失の削減に加え、排水の再利用システムの導入も現地から期待されています*****。

     

    *****国連開発計画(UNDP)「ウズベキスタン、日本およびUNDP、アラル海水資源プロジェクトを開始」(2026年6月)

     

     

    アラル海は元に戻るのか?回復への取り組み

     

    アラル海の一部では、水位の回復や住民の適応に向けた取り組みが進められています。ここでは、地域ごとの現状を3つの観点から紹介します。

     

    北アラル海:堤防建設による水位回復

    北アラル海では、カザフスタンが2005年に完成させた堤防(コカラル堤防)により水位が回復し、漁業が一部再開するなど、改善の兆しが見られます。堤防完成前の2004年には、漁獲量は52トンまで落ち込んでいましたが、2008年には1,490トン、2016年には7,100トンまで回復したと報告されています。

     

    南アラル海:回復が難しい現状

    南アラル海は水源からの距離や水量の少なさから、回復は難しいとされています。乾いた湖底には「アラルクム」と呼ばれる塩と砂の新たな砂漠が形成され、そこから飛散する塩分と砂塵が周辺の農地をさらに劣化させる悪循環も生じています。

     

    現地での適応の取り組み

    現地では、国連開発計画(UNDP)が塩分に強い植物(サクサウールなど)を植えて砂塵の飛散を抑える活動や、住民が乾燥した環境に適応するための取り組みも進められています。さらに、地元企業家に対して、EコマースやFinTech、SNSのビジネス活用を推進し、収入向上を図る取り組みも行われています****。

     

     

    アラル海の消滅を、水資源の使い方を考えるきっかけに

    日本の水資源

     

    アラル海は中央アジアのカザフスタンとウズベキスタン国境にあり、旧ソ連時代の灌漑農業政策によって縮小しました。ウズベキスタンの水不足問題は、アラル海の縮小と根を同じくする問題であり、水資源の持続可能な利用が引き続き求められています。

     

    そして、アラル海の事例が示しているのは、「水を使うこと」と「水を排すること」が表裏一体だということです。灌漑によって水を引き込むだけで、余分な水を適切に排除する仕組みが伴わなければ、地下水位の上昇と塩類の集積を招き、農地も構造物も損なわれていきます。

    近年、地球の気候環境は変化しつつあります。私たちも、水資源を未来に残していけるように、どのように有効活用すべきか、どのように減少を防いでいくか、考えていく必要があるといえるでしょう。

     

     

    アラル海に関するよくある質問

     

    Q.アラル海はどこの国にありますか?

    A.中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンの国境にまたがる内陸湖です。北部はカザフスタンのクズロルダ州、南部はウズベキスタンのカラカルパクスタン共和国に属しています。

     

    Q.アラル海はもう完全に消滅したのですか?

    A.完全に消滅したわけではありません。南アラル海の東部など一部は干上がっていますが、北アラル海では堤防の建設により、近年水位が回復している場所もあります。

     

    Q.塩害は農地だけの問題ですか?

    A.農地だけではありません。地下水位の上昇によって塩分を含む地下水が構造物の基礎付近まで達すると、コンクリートの劣化を早める要因になります。塩害対策は、地域のインフラの寿命にも関わる問題です。

     

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