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水ビジネスは儲かる?市場規模や日本企業の技術力、課題とは

水ビジネス

 

水は私たちの生活に欠かせない資源であり、安定した供給と効率的な管理は私たちの社会の持続可能性に直結するものです。

近年、世界的な人口増加や気候変動、インフラ老朽化などの社会的課題から、水ビジネスが急速に注目を集めています。

そこで今回は、水ビジネスについて、市場規模や成長予測、日本の技術力、課題などを体系的にご紹介します。

 

 

目次

     

     

     

    水ビジネスの現状と成長予測

     

    水ビジネス

     

    出典:経済産業省「世界の水インフラはどうなっているのか?

     

    世界の水ビジネス市場は急速な拡大を続けており、このまま行けば巨大市場に成長すると予測されています。この水ビジネス市場の成長を牽引しているのは、世界の人口増加や都市化、そして既存インフラの老朽化といった問題です。

     

    世界と日本の水ビジネス市場の現状

    世界の水ビジネス市場は2010年の約50兆円から2019年には約72兆円まで拡大し、2030年には110兆円を超えると見込まれています。市場の内訳では、上下水道事業が約7割を占め、その中でも維持管理分野の規模が特に大きくなっています*。

     

    一方、日本国内には約3,800の水道事業が存在し、人口減少により収益は減少傾向にありますが、質の高い水道システムは国内外から高い評価を受けています。水道普及率は98%に達し、日本は水道水をそのまま飲用できる数少ない国のうちの1つです。この優れた水道事業を支えているのは、自治体と企業の高い技術力といえるでしょう。

     

     

    成長を牽引する社会的背景と課題

     

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    ※出典:厚生労働省資料

     

    近年の地球温暖化による集中豪雨や水害リスクの増大が、インフラを強靭化する必要性を高めています。気候変動により干ばつや洪水が頻発する中、水資源の安定供給と効率的な管理は世界的な課題のひとつです。

     

    一方で、日本では、少子高齢化や節水機器の普及により水使用量は減少し、自治体の水道事業運営は財政面で限界に直面しています。給水量は2050年にはピーク時である1990年の約67%、2100年には約37%まで落ち込むと推計されています***。

     

    こうした課題が官民連携や民間活力導入の動きを促進し、新たなビジネスチャンスを生み出していることも事実です。さらに、IoTやAIなどのデジタル技術を活用した効率的な運用と新たな価値創造が期待されており、水ビジネスの可能性は無限大に広がっています。

     

    *経済産業省「世界の水インフラはどうなっているのか?

    **国土交通省「令和6年度 全国水道主管課長会議

    ***環境省「第3節 世界への貢献と水ビジネス

     

     

     

    日本の水ビジネスにおける強み

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    日本は水処理技術において世界トップクラスの実力を持ち、特に膜技術では圧倒的なシェアを誇っています。産学官連携による技術開発と、長年蓄積されたノウハウが日本の強みとなっています。

     

     

    世界トップクラスの水処理・膜技術

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    ※出典:環境省「第3節 世界への貢献と水ビジネス

     

    日本は海水淡水化用のRO膜(逆浸透膜)技術で世界シェアの約5割を占めており、そのうち、日東電工株式会社、東レ株式会社、東洋紡株式会社の合計シェアは5割に達しています。特に、東レ株式会社は、アラブ首長国連邦のタビーラ海水淡水化プラント向けに、RO膜(逆浸透膜)を受注しました。90.9万m3/日の造水量を誇るタビーラ海水淡水化プラントは、RO膜法として世界最大級の海水淡水化プラントです。

     

    なお、RO膜(逆浸透膜)とは、極小の孔から海水から水分子だけを通すことで、塩分やウイルス、細菌などの不純物を除去して真水を作り出すことができる膜のことです。日本企業は、エネルギー効率の高い技術開発を継続的に進めており、従来の蒸発法と比較して環境負荷やコストを大幅に抑えることができます。

     

    ■RO膜(逆浸透膜)技術

     

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    出典:首相官邸ホームページ「海外展開戦略(水)

     

    また、日本は、汚泥脱水や浄化槽技術、ヒートポンプ技術など幅広い分野で高い技術力を持ち、環境保全と資源循環に貢献しています。これらの技術は国内外の水インフラ整備において重要な役割を果たし、国際的な評価も高まっています****。

     

     

    技術力を支える産学官連携

    これまで日本の水ビジネスは、経済産業省が国際展開に向けた課題と具体的方策を策定し、企業は水ビジネスの世界展開を推進するなど、産学官の連携により技術開発を進めてきました。

     

    しかし、現在の日本では技術者の高齢化が進み、技術継承や人材育成が課題となっています。地方自治体では、従来は主体となって民間企業に委託する形で上下水道の整備や管理を行ってきましたが、人材や資金の面で限界に直面しています。

     

    IoTやデジタル技術の導入により、効率的な運用と新たな価値創造が期待されています。民間企業からすると、日本の水インフラの上下水道の運用をIoTやAIなどのシステムでの管理により膨大なビッグデータを得ることができ、そのデータの利用や関連する新規ビジネスに伸び代を感じている企業が多数参入し始めています。

     

    ****環境省「平成22年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」

     

     

    国内外の水道インフラの現状と課題

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    日本国内では水道インフラの老朽化が深刻化し、更新需要が高まっています。
    一方、海外では上下水道整備が進む中、日本企業は技術力を武器に市場参入を図っていますが、運営ノウハウの面やコストの面で課題を抱えています。
    

     

    日本の水道インフラの老朽化と運営課題

    日本の水道管は、高度成長期に整備された法定耐用年数を超えたものが多く、漏水事故が年間2万件以上発生しています。また、浄水場や水道管の中にも昭和30年代に整備された老朽施設が残っており、これらをすべて更新するには莫大な費用が必要です。

    少子高齢化が進む現在では、自治体単独での運営は資金・人材面で限界があることも事実で、広域化や官民連携による効率化が求められています。全国で事業の維持が困難と予測される自治体も増えており、PPP(Public-Private Partnership)やコンセッション(公設民営)という概念が強まっています。*****。

     

    その一例として、水道事業において、2022年4月から宮城県でスタートした、全国初となる「みやぎ型管理運営方式」をご紹介します。

    みやぎ型管理運営方式は、給水人口は約189万人とし、水道用水供給事業・工業用水道事業・流域下水道事業の3事業を運営するのは、県企業局や民間企業です。施設の所有権は宮城県が持ち続け、最終責任も県が負うものの、運営は県とともに民間の企業も行うといった官民連携の仕組みで、20年間で200億円以上ものコスト削減効果を見込まれています******。

     

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    ※出典:宮城県企業局「宮城県上工下水一体官民連携運営事業 (みやぎ型管理運営方式)について

     

     

    海外の水道インフラ事情と日本企業の課題

    途上国では、近年日本企業による上下水道整備が進む一方で、維持管理や運営におけるノウハウは不足しています。ユニセフの公表によると、世界の人口の約3人に1人は安全な水を利用できない状態にあり、安全に管理されたトイレを使用できない人は約42億人もいます。

     

    途上国の水道インフラ事業では、欧米企業が運営段階で優位に立つ中、日本企業は高い技術力は持っているものの、マネジメント分野での実績が限定的な点が課題といえます。日本の上下水道事業は地方自治体が経営しているため、民間企業は事業運営に関わる経験が少ないとというのが要因です。

    日本の技術とノウハウを活かすためには、官民連携と運営ノウハウの移転が不可欠です。日本企業の2019年度の海外売上高は3,473億円と、2010年度(1,757億円)と比べてほぼ倍増しており、今後もさらなる増加が期待されています*。

     

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    出典:経済産業省「世界の水インフラはどうなっているのか?

     

    また、特に途上国では、日本の製品は性能が良いものの、価格が高いこと点も課題として挙げられます。現地企業と共同で事業に取り組むといった、コスト削減につなげる工夫をする必要があるといえるでしょう。

    日本の技術とノウハウを活かすためには、官民連携と運営ノウハウの移転が不可欠です。日本企業の2019年度の海外売上高は3,473億円と、2010年度(1,757億円)と比べてほぼ倍増しており、今後もさらなる増加が期待されています。

    *経済産業省「世界の水インフラはどうなっているのか?

    *****厚生労働省「水道の現状と水道の見直しについて

    ******宮城県企業局「宮城県上工下水一体官民連携運営事業 (みやぎ型管理運営方式)について

     

     

     

    水ビジネスに関わる主要企業の動向

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    国内外の主要企業が水ビジネス市場で激しい競争を繰り広げています。日本企業は高い技術力を武器に市場参入を図る一方、世界の「水メジャー」と呼ばれる巨大企業群が市場の大部分を占めています。

     

     

    国内主要企業の技術と事業展開

    株式会社クボタは創業130年以上の歴史を持ち、国内の高度浄水処理施設における処理装置採用率は約80%に達しています。海外展開では120カ国以上に進出し、海外売上比率が78%と成功を収めています。主力商品のダクタイル鉄管は70カ国以上に納入実績があります*******。

    また、栗田工業株式会社は総合水処理システムで国内首位の地位を占め、野村マイクロ・サイエンス株式会社は電子機器や医薬品の生産に不可欠な「超純水」の製造装置を手掛けています。

     

    これらの企業に上記で挙げた海水淡水化用のRO膜(逆浸透膜)技術でシェアを占める企業も含めて、国内のインフラ強靭化や環境対策に貢献しつつ、海外展開も積極的に進めています。異業種連携やIoT活用による新たなソリューション開発も進行中です。

     

     

    世界の水メジャーと日本企業の競争環境

    フランスのヴェオリア、スエズ、イギリスのテムズ・ウォーターが「水メジャー」と呼ばれ、かつては世界の民営水道による給水人口の約8割を占めていました***。これらの企業は施設の設計・建設、運営管理から経営まで、水に関わる全ての業務を一貫して行える点が強みです。

    しかし、世界市場におけるシェアは2001年頃の7~8割から、現在では3割程度まで減少しています。アジアでは、シンガポールのHyflux、韓国のK-ウォーターや斗山などの新興企業が勢力を上げており、参入をめぐる企業間競争は激しさを増しています***。

     

    日本企業は技術力を武器に、広域化や小型分散型ソリューションで差別化を図っています。日本においても、旭化成、荏原製作所、クボタ、クラレ、メタウォーター、日立製作所、JFEエンジニアリング、さらには伊藤忠商事、住友商事、三菱商事といった総合商社など、数多くの企業が水ビジネスに参入し、海外市場への進出も見据えたビジネスを展開し始めています********。

     

    *******プルーヴ株式会社「世界で拡大する水ビジネス!企業ランキング一覧や取組事例を紹介

    ***環境省「第3節 世界への貢献と水ビジネス

    ********doda「世界に広がる水ビジネスと日本企業~業界を超えた人材の活躍が日本の水ビジネスを救う~

     

     

    水ビジネスは海外では国際競争力の強化、国内では効率的な運用が欠かせない

    水ビジネス

     

    水ビジネスは、2030年に110兆円を超えることが予想されている、世界的な成長市場です。日本は水ビジネス分野では高い技術力を持ち、特に、RO膜技術で世界シェアの50%以上を占めています。

    近年は、国内外のインフラ老朽化や社会課題を背景に、水ビジネスの分野でも、官民連携や広域化が注目されています。

    今後日本は水ビジネスにおいて、海外では強みである技術力にマネジメント力・コスト調整力を融合させて国際競争力の強化を図ることが重要であり、国内では官民の連携やIoTやAIなどのデジタル技術の活用による効率的な運用が期待されています。