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【内水氾濫】排水能力を超える雨と都市浸水
<データで紐解く、日本の水/第2回>

近年、都市で起きている浸水被害の多くは、川があふれる「洪水」だけが原因ではありません。短時間に大量の雨が降ることで、街の排水能力を超え、行き場を失った雨水があふれ出す「内水氾濫(ないすいはんらん)」が各地で発生しています。マンホールから水が噴き出し、道路が冠水し、地下空間へ水が流れ込む――。アスファルトやコンクリートに覆われ、雨水が地面に浸透しにくい現代の都市が抱える浸水リスク。その仕組みを、データとともに読み解きます。
目次
「内水」と「外水」― ふたつの氾濫
水害は、水のあふれ方によって大きく二つに分けられます。河川の水位が上がり堤防を越えて市街地へ流れ込む「外水氾濫」と、市街地に降った雨を排水路や下水道がさばききれずにあふれる「内水氾濫」です。両者の違いを整理すると、次のようになります。

| 比較項目 | 内水氾濫 | 外水氾濫 |
|---|---|---|
| あふれる水 | 市街地に降った雨水 | 河川の水 |
| 主な原因 | 排水能力の不足・超過 | 河川の増水・堤防の決壊 |
| 起こる場所 | 川から離れた市街地でも発生 | 河川沿いの低地 |
| 発生の速さ | 短時間の集中豪雨で急激に | 比較的ゆるやかに進行 |
| 典型的な被害 | 道路冠水、地下浸水、マンホール噴出 | 広域の浸水、家屋流失 |
外水氾濫が「外から来る水」だとすれば、内水氾濫は「足元から湧く水」。降った場所そのものが浸水するため、川から離れた市街地でも起こり得るのが大きな特徴です。地下街や地下室、アンダーパスなど、低い場所に一気に水が集まる都市部では、とくに危険が高まります。
データで見る、内水氾濫の存在感
内水氾濫は、被害額の面でも決して小さくありません。国土交通省の水害統計によると、近年の全国の水害被害額のうち、おおよそ3〜4割が内水氾濫によるものとされています。人口や資産が集中する都市部ほどこの比率は高く、東京都では水害被害額の約7割が内水氾濫によるという推計もあります。

| 地域 | 水害被害額に占める内水氾濫の割合(目安) |
|---|---|
| 全国 | 約3〜4割 |
| 東京都 | 約7割 |
都市に被害が集中するのには、明確な理由があります。地面の多くがアスファルトやコンクリートで覆われた都市では、雨水が地中に染み込まず、いっせいに排水路へと流れ込みます。降った雨を受け止める「余白」が少ないぶん、排水施設への負担が一気に高まるのです。
激しさを増す雨が、リスクを押し上げる
そこに追い打ちをかけるのが、雨そのものの変化です。気象庁のアメダス観測によると、短時間に降る強い雨の発生回数は、この数十年で明らかに増えています。

| 雨の強さ | 1976〜1985年の年間回数 | 近年(直近10年)の年間回数 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 1時間50mm以上
(非常に激しい雨) |
約226回 | 約330回 | 約1.5倍 |
※全国約1,300地点あたりに換算した値(出典:気象庁)
1時間に50mmを超える雨は「滝のように降る」と表現される強さで、80mmを超えれば「息苦しくなるような圧迫感」がある雨とされます。こうした猛烈な雨は短時間で排水施設の処理能力を超えてしまい、内水氾濫を引き起こす直接の引き金になります。「都市が水を染み込ませにくい」ことと「降る雨が激しくなる」ことが重なり、内水氾濫のリスクは年々高まっているのです。
鍵を握る「排水」のちから
内水氾濫を防げるかどうかは、降った雨をいかに速やかに、安全に排出できるかにかかっています。対策の基本は、雨水を「ためる・浸透させる・流す」を組み合わせ、排水システム全体で豪雨をいなすことです。

| 考え方 | 役割 | 主な施設の例 |
|---|---|---|
| ためる | 雨水を一時的に貯留し、流出のピークを抑える | 雨水調整池、貯留管 |
| 浸透させる | 雨水を地中に浸み込ませ、排水路への流入を減らす | 浸透ます、透水性舗装 |
| 流す | 集めた雨水を河川などへ安全に排出する | 雨水管、排水路、ポンプ場 |
逆に言えば、排水を担うインフラのどこかが目詰まりを起こせば、街はたちまち水に浸かります。激甚化する豪雨に対して排水能力をいかに確保し、水の流れをスムーズに保つか――その重要性は、これからますます大きくなっていきます。
内水氾濫への備えと対策 ― 三つの層で守る
内水氾濫は、どこか一つの取り組みだけで防げるものではありません。行政による「公助」、地域・企業による取り組み、そして一人ひとりの「自助」。この三つの層が重なり合うことで、被害は大きく軽減できます。それぞれにできることを整理すると、次のようになります。
| 担い手 | 対策の種類 | 具体例 |
|---|---|---|
| 行政(公助) | ハード対策 | 雨水管・排水路の整備、ポンプ場の増強、貯留管・調整池・浸透施設の設置 |
| ソフト対策 | 内水ハザードマップの作成・公表、下水道の水位周知、避難情報の発信 | |
| 地域・企業 | 自助・共助 | 建物への止水板・防水扉の設置、地下空間の浸水対策、雨水貯留施設の整備 |
| 個人・家庭 | 自助 | ハザードマップの事前確認、土のう・止水板の準備、側溝清掃、早めの避難 |
国土交通省も、施設整備(ハード)だけに頼るのではなく、ハザードマップや水位周知といったソフト対策、住民の自助を組み合わせた「総合的な対策」を進める方針を示しています。施設の処理能力を超える豪雨が現実に起きている以上、「ハードで防ぎきる」発想から「被害を最小化する」発想への転換が欠かせません。
個人でできる備え
そのうえで、個人ができる備えは決して小さくありません。大切なのは、「ふだん」「大雨が近づいたとき」「浸水が迫ったとき」の3つの場面で、やるべきことを分けて考えておくことです。
① ふだんからの備え(平常時)
いざというときに慌てないための土台づくりです。
- 自宅や職場の内水ハザードマップを確認し、浸水の深さや危険な場所、避難先・避難経路を家族で共有しておく。
- 止水板や土のう(水を吸って膨らむ「吸水土のう」も便利)、長靴、懐中電灯、モバイルバッテリーなどを準備しておく。
- ハザードマップで浸水リスクが高い場合は、エアコン室外機や給湯器を高い位置に設置する、地下や1階に大切なものを置かない、といった対策も有効。
② 大雨が近づいたとき(警戒時)
気象情報に注意し、被害を防ぐ行動を早めにとります。
- 気象庁の「キキクル(大雨・洪水の危険度分布)」や自治体の防災情報をこまめに確認する。
- 玄関や駐車場、地下の入口に止水板や土のうを設置する。プランターやゴミ袋(水のう)でも代用できる。
- 家の周りの側溝・排水溝の落ち葉やゴミを取り除き、水の流れを妨げないようにする。
- 車を高い場所へ移動させ、外出はできるだけ控える。
▼予測を待たずに確かめる ―「キキクル」という道具
気象庁が提供する キキクルは、予測ではなく 「いま、自分のいる場所がどれだけ危険か」を色で示す地図 です。
大雨や洪水による災害の危険が、どこで、どのレベルで迫っているのかを、地図上で視覚的に確認することができる情報で、気象庁のホームページで公開されています。
③ 浸水が迫ったとき(緊急時)
このときは「命を守る行動」が最優先です。
- 地下室・地下街・アンダーパス(立体交差の下)には絶対に入らない。水は一気に流れ込み、ドアが水圧で開かなくなることもある。
- 避難は水が浅く、明るいうちに。移動が危険なほど水が迫っているときは、無理に外へ出ず、建物の2階以上など高い場所へ移動する(垂直避難)。
- 冠水した道路は側溝やマンホールが見えず危険。やむを得ず歩くときは、長い棒で足元を確かめながら進む。
- 車の運転中に冠水に遭ったら、無理に進まず、水が浅いうちに車を離れて高い場所へ避難する。
とりわけ内水氾濫は、川から離れた場所でも、天気がまだ大きく崩れる前でも起こり得ます。「まだ大丈夫」と思っているうちに足元が浸かることも少なくありません。早め早めの行動こそが、被害を防ぐ最大の備えです。
おわりに
ニホン・ドレンは創業以来、暗渠排水材や導水製品をはじめとする「水の流れをつくる」技術で、道路やトンネル、各種構造物の排水を支えてきました。降った雨を安全に導き、街と暮らしを浸水から守る――。激甚化する豪雨の時代にあって、私たちは排水のものづくりを通じて、これからも社会基盤の安心に貢献していきます。
出典・参考
- 国土交通省「水害統計調査」
- 国土交通省「近年の降雨及び内水被害の状況、下水道整備の現状について」
- 国土交通省「下水道による内水浸水対策について」
- 気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」/「日本の気候変動2025」


